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2025年4月15日火曜日

可愛らし過ぎる!

 いや、「可愛らしいモノ」なんて、今の世の中には溢れていますよ。
 でも、「江戸時代に作られた」という条件が付加されれば、「時代を超越した可愛らしさ」であることに震えるしかありません。可愛らし過ぎる!

これは主役級の扱いでしょ?


 ということで、大荒れのお天気の中「さいたま市岩槻人形博物館」略して「にんぱく」に行って来ました。
 にんぱくでは、毎年1月から3月にかけては雛人形にまつわる企画展が開催されます。
 昨年(2024年)は「にんぱくの雛祭り−商家に伝わるお雛さま−」と題して、化粧水「ヘチマコロン」の発売元として知られていた東京・天野家の旧所蔵品を中心とした展示。
 今年は「開館5周年記念 雛の名品〜おひなさまづくし〜」として、収蔵品の中から代表的な名品を展示するということでした。

中央から右側のパネル3枚の真ん中が「人形修復」の説明のもの


 個人的には「古い雛人形」って、なんか傷んで劣化してるのを見ると痛々しいし、そもそもいわゆる「日本人形」は、ちょっと薄気味悪く感じてしまうのです。
 が、そんな中、実に素朴な味わいの「次郎左衛門雛の立雛」の大作(←特大サイズと言う意味です)は「なんか、良いわー」と思いながら眺められました。描き込まれた目鼻が淡くて、人形らしさを強く感じさせないのが良いのかも。
 「寛永雛」くらいまで古くなると、逆に気味悪さが薄らいで見られたなあ。
 結局、「享保雛」が一番薄気味悪いですねえ。面長な顔の作りが良くないのかなあ…。


 さて、今回の企画展で1番気に入ったのは、実は人形ではなく、付随する小道具=雛道具でした。それが、冒頭に掲載した写真です。
 企画展示がされている「第3展示室」に入ってすぐの、正面のケースに展示されていることからも、実は結構アピールされている物なのではないかと思うのですが。

切子細工が凄い

上の写真の物も含め「蓋」は開け閉め可能(!)


 各ガラス製の器のミニチュアの精巧さに驚かされますが、それより何より、動物達の可愛さが素晴らしい。

うさぎはわんこの下のこっち向いてる子が可愛いかな


 日本語による解説には「江戸時代」と書かれているのですが、英語での記載は「19th century」となっています。
 「江戸時代で19世紀」と言われると、1800〜1867年となり、末の方ならば明治時代に近くなる訳ですが、この子たちが作られたのは何時ごろのことなんですかねえ?
 間を取って仮に1834年とすると、2025年の今からは約200年前になります。西洋諸国ならばありふれたものなのかもしれませんが、「日本に於いて」とすると、こういう作りのアイテムというのは、飛び抜けたもののように感じました。

 帰宅後、気になってちょっとだけ調べてみると、神戸市立博物館で「雛のガラス」として2022年2〜3月に展示されたものの中に同じ様なガラスの雛道具があり、そちらには「江戸時代後期〜明治時代前期(1844〜1887)」とありました。なるほど、それくらいなのかもしれませんね。

耳のふさっとしたとことか、表情に非江戸時代感がするんだよねえ


 ただし、動物達のガラス細工は無く、年代は分かりません。うさぎはともかく、特に犬の表現の仕方を見ると、雛道具とは少し時代が違うように思えてなりません。雛人形全体に含まれていた物なのか、それとも後日別途手に入れた動物達を混ぜ込んでしまったのか。さて、真実はどうなんでしょうかねえ?

 作り方としては、いわゆる「ランプワーク」という手法になるのでしょうか。もう少し調べてみたいところです。
 加工の内、切子細工の方は、その名の通り「切削」だと思います。それに対して、動物達の滑らかな表面は、どうやってるのかしらん?

 うーむ。
 調べている内に、この手の作品に強い「KOBE とんぼ玉ミュージアム」に興味が湧いてきた。その内、そちらにも行ってみようかな。



 会期末に近いのと、折からの荒天もあってか、来館者がとても少なかったんですよね。
 なので気が大きくなっていたこともあって、展示室内で監視されてる係員の方に何点か質問してみました。

 常設展示の中にあった「享保雛」は、男雛の方の顔にかなり皺が出ている所があり(もみあげ〜顎にかけて)、女雛も口の周りに膨らんだ皺があり、劣化が気になりました。
 伝統的な日本人形の頭部(頭=かしら)は「桐塑頭(とうそかしら)」という、木の粉を玉子形に樹脂で固めた素体に、牡蠣などの貝殻を砕いて粉末にした物を動物由来の樹脂と合わせた「胡粉(ごふん)」というある種の塗料を塗って形作ります。

 胡粉は、天然素材ベースでそれなりの耐久性があると思われるのですが、それでも長年の内に経年劣化して、膨れ上がったり、ひび割れたりして、最後には剥がれ落ちてしまう訳です。
 「この雛人形も、今は皺の段階だけど、その内にもっと劣化してしまうんだろうな。胡粉が剥がれたりしたら、人形としての価値は無くなっちゃうのかな。補修とか、どうするのかな」と思って職員の方に訊いてみたら、「当館の方針としては、傷や劣化を無い状態に修復することはしません。劣化は劣化とした上で、それ以上状態が悪くならない様な補修を行っています。また、将来の技術の進歩で、より良い補修が出来る可能性もあるので、最悪、補修したところを除去出来るようにしています(!)」と説明してくれました。

 「見た目としては、完全に直しきるのが良い」のでしょうが、当該人形の伝来されて来た歴史と価値を大切にして、敢えて完全には直さないという選択もあるんだと、勉強になりました。

 一通り説明してくれた後、「お荷物になって申し訳ないのですが…」といって、昨年夏の企画展「にんぱくの人形修復 ~文化財を未来へ~」の時の小冊子を持って来てくださいました。ちょうど前の職場を辞めた直後でいろいろと用事もあり、この企画展には来られなかったのですよね…。万障繰り合わせて見にくればよかったなあと反省。

企画展の入り口付近の写真に写っていた「人形修復」のパネルのアップ


 企画展の展示室内でも、写真撮影の可否を訊ねたついでに「このガラスの動物達って、どうやって作ったんですかねえ? 江戸時代なこういう意匠で作れるって凄いですよね」となんとなくお話したら、メモ帳を取り出して書き込んでおられ、「なるほど。お調べして、回答させていただきます」と答えてくださったのですが、お手間取らせるのも考えもんだし、この場でバックヤードに走って調べ切れるものでもなかろうし、「いえいえ、それには及びません。あまりに可愛いので…。感想みたいなものですから」と流したのですが…。
 動物達と雛道具の製作時期については気になるところだし、改めて質問のメールでも送ってみようかしらん。

 でも、こうしてみると、にんぱくって、真摯に人形に向きあって取り組んでいるんだなと感心します。
 次の企画展も気になるし、しまった、年間パスポート作ってくればよかったか…。


 興味のない人からすれば、まるで関係のない博物館です。
 そもそも自分も「MOVIXさいたま」で映画を見た時に、にんぱくの宣伝動画を見なければ訪れることのなかった。
 どこで何と繋がるか分からないこの世の中。
 たまには普段と全然異なる領域に飛び込んでみるのも、新しい発見があって面白いですね。

 引き続き、どんな世界と出会えるか。
 生きてる限り、興味は尽きませんねえ。